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コラム(H29.11.24)

趣旨が大事

 労働審判での出来事。相手方代理人(会社側の弁護士)から,解雇を巡る事実経過として,解雇予告通知をした,実際に解雇通知をする時(予告通知の1か月後)になっても状況は変わっていなかったので解雇の決意をした,と説明された。私は「ん?」と思った。解雇予告通知というのは,このまま状況が変わらなければ解雇しますよーと予告するものではないはずだからだ。ん?と思ったのは私だけではなかったようで,労働審判員も,解雇予告通知をした後に状況が変わらなかったので解雇を決意したと発言されていましたが,状況が変わらなかったというのは関係ないですよね,と発言していた。
 司法試験受験生時代,「趣旨を押さえることが大事」と何度も言われた。私はそれを,専ら丸暗記する事項を減らすために励行していた。司法試験では,六法を見ず答えなければならないことがたくさんあった。いちばん多いのは民法で,例えば要件は「善意」だけなのか「無過失」も必要なのかなど,他の条文や制度とごっちゃになって覚えにくいときに,〇〇という趣旨からの制度であるということとセットで押さえておけば,「ここでは無過失までは不要(要件は善意のみ)」といった形で覚えやすく,丸暗記する事項を減らせたからだ。あと,趣旨から書かないと論文で点をつけてもらえないというのもあったと思う。
 実際に仕事を始めて,趣旨を知っておくというのは本当に大事だな,単なる受験テクニックではないな,と思う。先に書いた解雇予告通知についても,その制度趣旨(菅野和夫『労働法』では「(解雇が)経済的耐久力のない労働者へ与える打撃の大きさ」と説明されている)を理解していれば,このまま状況が変わらなければ解雇しますよーと予告するための制度として使うことはないと思うのだ。また,具体例を出しての説明は難しいのだが,制度趣旨を押さえておくと,引き出しが増えるというか,いろいろ応用が利くように思う。
 このように書いてはいるものの,私が制度趣旨をばっちり押さえられているかというと全くそんなことはなく,新たに身に付けないといけない制度趣旨がたくさんある一方,忘却は進むばかりで,何とかしないとなぁと思いながら何もできていない今日この頃だ。
 ところで,弁護士はAIに取って代わられるかという議論を耳にするが,AIは制度趣旨も一緒に身に付けるのだろうか。AIは制度趣旨を身に付けなくても間違えない,と言われるかもしれないが,本当に大丈夫かなと思ってしまう。他にも,公害事件とか労働事件とか,既存の法律や判例では勝訴できないように見える事案でも,この当事者は護られるべきではないかと考えた弁護士が,知恵を絞って訴え,判例をつくり,行政基準を変え法律も変えてきたという歴史があると思うのだが,AIは,この当事者は護られるべきではないかと考えたりするんだろうか。そんなことを考えていた時に読んだ,元裁判官・木谷明弁護士のインタビュー(月刊弁護士ドットコム2周年特大号掲載)で,ご自身が無罪判決を書いた事件に触れ,コンピューターに過去のケースを学ばせて判定したら有罪になるかもしれない,でも刑事裁判は人間がやる裁判だから人間の心がこもっていなければいけない,と語られていた。弁護士の仕事も,やはり人間の心をこめてするものではないかと思うのだ。
(弁護士 佐藤真奈美)

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